輪廻転生と千の風になる岐路

2024年02月22日 23:36



 人間には種々の感情がある。 生命的な感情や心情的感情、そして精神的感情があるが、
その基盤には爽やかで生き生きとして活気に満ちた生命的感情などあるが、それを「生命的感情」と定義したい。
このように活力溢れる生命状態を希求し、招来する本源的なものに合一しょうとする欲望を「本源的欲望」と呼びたい。
爽やかな生命的感情が出れば怒りや憎悪の心が消滅するのではなく、人間的心情の豊さを示すものだ。この「本源的欲望」が弱まり、「生命的感情」の流れが枯渇してしまえば、人間の心情も精神的感情も人間のものとは思われないほど干からびたものになる。 統合失調症の患者の中には、欲望さえなくなってしまう人もいる。無論、各種の欲望も失われ生きる屍となる。
生命の他種の欲望にエネルギーを与える「本的欲望」自体が衰えているのである。
生物としての生を維持する「脳幹」には意識的精神活動は関与しない。眠っている時、上位の大皮質の細胞は活動を停止しているが、脳幹の部分は働き生命を維持してい
る。全身に分布する植物神経系である。このような生命エネルギーの基盤になるのが「本源的欲望」である。 人間や生物などの生命を貫き宇宙自体に流れるエネルギーと「本源欲望」は合を希求している。
宇宙力学のデービッド・ボーム(1917-1992)(理論物理学・ロンドン大学教授)は、思考という作業には限界がある。 しかし、イマジネーションはクリエーティブエネルギー(宇宙エネルギー)を知覚できる、と。そしては思考という手段を通して発現される印覚であるという。更に、理性が欲望から解放されたとき、普遍的な領域インデビジュアルエネルギーに到達する。解放され理性は宇宙法則を知覚できると、述べた。
ジャズ評論家、バリーウラノフは言う。
自己示以外の何物でもない妙技などまったく無意味であり、高揚や三味境が「楽しみ」や「有頂天」以上のものであることや、それがまたジャズによって達成し得るものであり、重要な帰結に達するであろう。高揚や三味境は、この音がそうだと言って現すことは出来ないが、ジャズで表現出来るものなのである。「ジャズ栄光の巨人たち』 スイングジャーナル社刊)
しかし、本源的欲望は宇宙エネルギーであるユニバーサルエネルギーとの合一を希求しているが、ジャズでの可能性は個的生命流の純化であるインデビジュアルエネルギーの上位域「縁覚」という賢者の境涯だ。慢心するか。 謙虚でいられるか。 ジャズ演奏家の生き方次第で は分かれる。更なるビジョン、宇宙エネルギーとの合一が可能なのだ。
天台智頭は「摩訶止観」 一念三千の法門・十界論で地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天・声聞・縁覚・菩薩・仏の十の境涯を覚知。三昧鏡とは声聞・縁覚で四聖(声聞界以上)の二乗にあたる。下位、六道輪廻とは宇宙に溶け込まれず、生死を転生する境涯だ。ジャズ演奏は独自の奏法が「縁」で覚者の境涯を顕在化する。
 一流の域に達したジャズマンはアブストラクトセンセーションを脱し、宇宙エネルギーであるユニバーサルエネルギーとの合一に限りなく近づいたといえよう。なぜなら、聴衆に三昧の境地を与える菩薩行を実践しているからである。
 私見だがジョンコルトレーンは多種の働きをする仏の振る舞いのその一つ、「妙音菩薩」である。菩薩の到達点が「仏」であり、「神」である。四十歳で肝臓癌で亡くなったが、生き方は聖者そのものである。死んでも多くのリスナーに、限りなき名盤を残し、鑑賞者の無明を純化させ、苦悩から解放させるエネルギーを与える続ける。更に、現在のジャズマンの中で生き続けている。
 神は死んだが、人間を宇宙エネルギーと合一させる芸術はジャズより他にない。
 アルバート・アイラーに代表されるジャズのアルバムタイトルに「魂の合一」「聖霊」「魂の喜び」といった宗教的なのも偶然ではない。結びとして、ジャズの効用について、詩人でもある故、鍵谷幸信「(1930-1989)(慶應大学教授・英米文学者)」の言葉をもって結びとしたい。
 ジャズの優れた作品を聴く時、いつもアタマにいや心の中を去来するものは「サウンド」 「チャンス」 「時間」「空間」そして「沈黙」ということである。 サウンドがいきなりどこから出てきたのか判らないままなりひびく、そのチャンスはおそらくいかなる論理や先入観をもはるかに超えたものである。それから時間が融通無碍に働き始める。現在が過去が逆流し、過去が現在を飛びこえて未来へつながる。 空間が変幻自在に回転してくる。 ミクロが傾斜し、マクロが進む、もう僕はその真只中にいる。つまらない
想念や常識や通念を一瞬にして忘却させる。 自分から「自分」が浄化されていくのをいつも感じる。別の自分が生まれている。 モダンジャズは僕にとって自己解放と同時に自己開発の大いなる力を発揮したのである。
     (『音は立ったままでやってくる』集英社刊)

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