縄文人とジャズ演奏家の脳内は同期していた

2023年02月26日 17:54

 縄文人とジャズ演奏家の創造的脳内活動を考えたい。
脳内神経細胞は多数のニューロンを繋ぐ膨大なルートである。発火点シナプス結合の中から特定の結合が選ばれて働いている。ニューロン間での情報の受け渡しの際、脳波を発生する。
1929年、ドイツ・精神科医ハンス・ベルガー「ヒトの脳波について」論文発表。現代臨床脳波学の基礎となっている。
1~3Hz(ヘルツ)デルタ波、4~7Hzシータ波、8~13Hzアルファ波、14~30Hzベーター波30Hz~ガンマ波。デルタ波は深い睡眠時のノンレム睡眠で知られる。
シータ波は雑念と関わる神経DMN、デフォルトネットワーク(Default Mode Network)が働き、ぼんやりした状態の脳が行っている神経活動で、雑念と関わる神経ネットワークの働きを抑制するという研究結果がある。デフォルトモードネットワーク、DMNの働きは「危機への備え」や「創造性」と「情報の整理」があり、うつ病や不安神経症や雑念はDMNの過活動状態が根底にあり、脳内処理できてない状態といえる。自動車のアイドリングに例えられ、ON・OFFの切り替えが脳内ホルモン「セロトニン」の働きである。
シータ波はまどろみと集中力の脳波であり、脳がリラックスしている状態の脳波である。シータ波が出ている状態を多く経験することによって、脳の記憶や情報処理を行う部位である海馬の歯状回に変化が起こり、新生ニューロンの数を増加させる。
アルファ波が連続して深い瞑想に入るとシータ波になる。ジャズ演奏家はこの悟りの境地に入っていたといえよう。同様、縄文人も「縄文土器」「土偶」の創作活動では無心に没頭し瞑想状態といえる。
 ジャズ演奏家はパーソネルとのセッションは会話であり、同時に鑑賞者でもある。セッションのパーソネル同士は波の持つ特性である神経同期=コヒ-レンス(可干渉性)が働き、複数の波の振幅と位相の間に、一定の関係が認められ、脳の一部を刺激しあい、脳活動の創造性を高める。
 近赤外分光法測定で、演奏家と聴衆の脳はシンクロしていたということが科学的に判明。(左側頭皮質、右前頭葉下部、中心後皮質で血流活性化)双方、脳の活動量が一致したとする結果。古くから、仏典に「声仏事を為す(声明、鐘や太鼓)」等、「経」や音楽だけが持つといわれた精神的伝達能力が科学的に証明された結果でもあり、特に、相互集中力を求められる即興ジャズのリーダーとメンバーは精神的に共鳴し、共通の歓喜、共通の精神的光景を生み出している証拠にもなる。叉、フォローワー同士以上に、リーダーとフォローワーの脳波コヒーレンスは強く同期していたとの報告もある。
脳神経外科医、奥村歩氏は「複雑な音楽は、ある種の複雑なニューロンのパターンを促し、逆に反復性のある音楽は逆効果を生む可能性がある」と自著(音楽で脳はここまで再生する/人間と歴史社)で述べる。難解であれば、覚知したときの喜び、探求心が刺激されることにより、報酬系という部位からドーパミンという神経伝達物質により活性化され、愉悦感を感じる。正に、ジャズは五感と認知機能をフル活動させ全能を用いるインプロビゼーションそのものだ。
ニューロン同士を接続するシナプスはさまざまな経験することで記憶や、変化するシナプスの働きを強くしたり、シナプスの数を増やしたりする構造的変化が起きる。数が増えれば情報をたくさん伝えられる。
ジャズ演奏家と縄文人の共通項は脳内ホルモン「セロトニン」の働きである。
セロトニン神経核は脳幹部縫線核である。中脳から脳幹の内側部に分布する細胞集団で免疫組織学的手法によりセロトニン細胞の分布と重なる。シナプス間隙のセロトニンが増加するとシナプス前膜のネガティブフィードバック(オートセレプター)が働き、セロトニンの働きを抑制する。情動や認知機能にも関与する。(関西医科大学医学部中村加枝教授)
セロトニンの分布抑制因子はストレスである。セロトニンが過剰に働くと、遊離された神経伝達物質の一部は神経前終末へ回収される。オートセレプターを適応性に保つにはジャズ鑑賞等、シータ波との同期、感応や、叉、マインドフルネスの継続が求められ、オートセレプターの数が適応性に減少し、セロトニン神経が賦活化されると考えられる。
東邦大学医学部名誉教授有田秀穂氏は道元の「只管打坐」を例に、マインドフルネスの効果「気づき」は数週間から数ヶ月の実践を要するという。「セロトニン欠乏脳(NHK出版)」
座禅ではないが、ジャズ鑑賞も内観に相応しい環境として「ジャズ喫茶」(会話厳禁店)を勧めたい。或いは、有志によるジャズレコード(CD)鑑賞会への定期的参加など。
 縄文人は現代人と違い、日の出とともに起床し、活動を始める。
体温やホルモン分泌を調整している体内時計は24時間周期だが、そのズレを調整するのが日光である。朝、日光を浴びることで、睡眠と覚醒のリズムを調整する。日中は「セロトニン」が働く。更に、縄文人の食生活からもセロトニンがでることの多い食事をしていたことを知ることができる。猪や鹿等の肉食とマグロやカツオ、イワシといった青背魚食が多く、アミノ酸などバランスのいい蛋白質を取っていた。また、栗やドングリ、クルミなど、炭水化物も摂取。自生していたセリやヨメナ、ヨモギなどビタミンやカロチンも含まれる。日本各地の縄文遺跡からクルミを粉末にして、猪や鹿の肉などを混ぜ、加熱した石の上で焼いていた痕跡もある。さらには成形の後、発酵熟成されたものもある。トリプトファンやビタミンB6を含む食材はセロトニンになるときの必須アミノ酸である。
 脳で作られるセロトニンを検知する生体の殆どが大腸だ。
40億年前、地球上に生物が誕生したとき、生物には「脳」を持っていなかった。
最初に備わった器官は「腸」であり、イソギンチャクやクラゲ等腔腸動物には脳がない。そこから進化したウニ、ヒトデ、なまこ等、棘皮動物も脳がない。
人間の腸は脳の役割を果たす。ニューロンの数は一億になり、腸は「第二の脳」と称される。
順天堂大学医学部、小林弘幸教授は次のように述べる。
 生物はまず腸ができ、分化して脳ができたとする。原生生物ヒドラも脳が無いのに餌を食べる。腸は独自の神経を持ち、人間の場合、自律神経の支配も受ける。「脳腸相関」といわれる。
「ベガス神経」は脳から首を通り、胸や腹部に至る脳神経である「迷走神経」と呼ばれ、「脳」と「腹部」でやりとりをしていて、伝達物質的によって、脳を中心とした中枢神経系や自律神経系、視床下部や下垂体、副腎などで作られ、心に働きかける。(参考文献:永山久夫「和の食前史」、縄文から現代まで長寿国、日本の恵み)河出書房新社刊
 ストレスに関係するホルモンの事例を挙げる。
①ノルアドレナリン
 緊張や不安、集中、積極性をもたらし、ストレスに打ち勝とうとするとき働く。
過剰になると攻撃的になったり、ヒステリー、パニックになる。
不足すると、無気力意欲減退になる。
②ドーパミン
 喜びや快楽、意欲をもたらす働き
過剰になると過食や、飲酒、ギャンブル依存症になる。
獲得する喜びに結びつく。
脳波測定で、感動でゾクゾクするとドーパミンの分泌が促進される。自律神経系(ANS)の亢進の不連続で明瞭なパターンが認められる。このパターンの発見で「精神整理学的な計測法による客観的評価」が可能となった。
不足すると無関心になり、性機能低下する。
 【セロトニン】
 アドレナリンとドーパミンの2つが過剰になっても暴走しないよう調節する働きである。
ストレスがかかると放出されるノルアドレナリンは自律神経に働きかけて心拍数をあげたり、血圧を上げたりして活動し易い状態をつくる。
セロトニンが不足すると感情にブレーキがきかなくなり、平常心が保てなくなる。
 セロトニン欠乏により、うつ病、パニック症や不安神経症発症。
セロトニン運動。一定のリズムでスキップするだけでセロトニンを増やすとされる。腸活動にもよく、心と身体のバランスをとるとされる。
さらに、ジャズ演奏家のスイングや身体全体のエモーショルな動きも、セロトニンの働きを高めよう。
セロトニンは与える喜びであり、筆者ブログ「縄文人は日常活動でジャズってた」の中で、地産物を見返りを求めず提供するギブ・ギブの喜びである。セロトニンをだしやすいことで、ストレスに強く、柔和で穏やかな性格で、人に好かれ、人材にも恵まれる。セロトニンの喜びは結果よりプロセスにフォーカスする。ジャズは演奏過程に集約される。まさに、ジャズ演奏家の行為ともオーバーラップする。
 ドーパミンは勝つ喜びであり、不本意な結果が続けば挫折し、喜びは一瞬である。(夢よもう一度と依存症になりやすい)
参考文献:有田秀穂、東邦大学名誉教授「医者が教えてくれない人の脳(三笠書房刊)」
 縄文人の脳内測定は出土遺構からの遺骨頭蓋骨で、脳波測定は不可能であり、食生活からの判断と、縄文人の日常活動からの推考とさせていただいた。

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