ジャズ曼荼羅って奇妙なタイトルかと思う。
一般的には密教の「真言曼荼羅」が知られている。
「大日如来」が中心に諸仏が取り囲むものだ。
さて、「ジャズ曼荼羅」は誰が中心に座るだろうか?
ビバップの生みの親、モダンジャズの原点チャーリーパーカーか?
私的にはジョンコルトレーンを中心に据えたい。
生きることに絶望していた15~16歳頃、ラジオから流れてきた、ジョンコルトレーンジャズに生きる希望を与えられたからだ。以来、ジャズ喫茶行脚が始まった。
ジャズ鑑賞は、リズムやハーモニー、メロディといった音楽の三要素であり、ピタゴラスのいうように宇宙のリズムでもある。
リズムが狂うことを病気又は不調という。
就中、ジャズはアフリカの大地の鼓動が独自のリズム感を生む。
野生のエネルギーでもある。
ジャズ演奏家から精神科医に転身したノブロックは著書「精神療法という音楽」でつぎのようにいう。
ジャズはビブラートが全細胞を動かすと。
ビブラートつまり、「ゆらぎ」である。
人の細胞も、粒子で出来ている。
量子論でも証明されている。
音楽はフォノンという媒体を必要な粒子である。
音波は媒体を介したゆらぎである。
空気の振動であるから。故に「準粒子」という。
「鬱病」等、精神疾患になると、心、精神を休め、回復を待つ。
しかし、海馬、扁桃体に記憶されたストレスは動物のように避難だけでは難しい。何故なら、人間は知的社会的生物であるからだ。
前頭連合野の活性化が求められる。旧脳を賦活化させるだけでは、前頭葉は働かず、現実の対応がスムーズにいかないことがストレスになる。
精神疾患からの回復はジャズ曼荼羅と向き合うことである。
ここで、コヒーレンスについて一言。
脳内同期のことで、近赤外分光法という計器で測定するものだ。
ヘルメット状の機器を被験者の頭に被せ神経伝達を計測するもので、リーダーとフォロワーの同期は強いとの結果であった。
感応といった霊媒的な現象が化学的に証明された。
故に、曼荼羅としてのジャズと同期が可能と考える。
それも、ジヨンコルトレーンジャズを傾聴することにより、快癒の兆しが出てくると思う今日この頃である。
何故なら、コルトレーンは、「苦悩の存在者」であり、ジャズというパーソネルとの音の会話=ジャズで苦悩を昇華してきたからであり、ジャズ演奏は、精神分析の「自由連想」に通じる。ある意味、メタファー隠喩であり、換喩に通じる。
自由連想は、無意識層にあるものを表現する場である。
精神分析によると、底にイドといって、本能や欲望のエネルギーがあり、その上にエゴ(自我)があるが、社会に適応しようと、その上の超自我(スーパーエゴ)が下部を抑圧する。
自由連想法は抑圧を解放する治療法である。
自由連想はジャズでいえば、デュオである。医者と患者である。
しかし、医者といった権威が存在する。フロイト(精神分析家)
は、患者のベットに背を向けトークするも、質問攻めにせず、「間合い」を大事にし、思いつくものを吐き出させるものである。
ジャズも「間合い」の芸術といってよい。
間合いの空間はパーソネルの呼吸やノンバーバルから影響を受け、また、与える。観客や会場の雰囲気も音楽の創造を司る。
ジャズ演奏は、時間とともに進行するインプロビゼーションであり、共通する。パーソネルの失敗も、逸脱も創造に結びつけるジャズ演奏家の感性と悟性に裏打ちされた大脳の柔軟性且つ、秀でた身体能力であり、境涯も高い。
ジャズ演奏家に共通する思考は、本質を追求する指向性だろう。
芸術家に共通するものでもある。
若き俊英ジャズピアニスト魚返明未(31歳)は言う。
ジャズ演奏はトゲトゲの丸いものが、融合して形作っていくようだと。更には、個性の違う者たちが「共有の枠組み」のもと楽曲が創られていく、社会の縮図といってよい。ジャズを演奏することは、ひとつの社会モデルを作っていることであると思う。今いる場所でそのままのあなたでいてほしいっていうことをジャズを通じて一番伝えたいです。
自由を求めるというプロセスの結実ですし、ジャズの本質です。だから、演奏する人にも聴く人にも救いをもたらすと思う。(魚返)
国籍も問わず、珠玉混合の世界でもある。ジャズ演奏家が人種や国籍に関係なく、初対面の相手とセッションしている事実。
「ジャズは国際言語」であると、米国上院・下院議会で決議される。(1987年)
以下、大脳全体の働きと「ジャズ」の構造を専門家の知見から学びたい。
そもそも、アフリカや、アメリカ先住民、我が国縄文人たちの意思伝達は、太鼓や、鳴り物で伝達していた。或いは狼煙等視覚に訴えた。
元来、音楽と言語、聴覚と視覚は深い関係を持つ。
芸術そのものが基本的に多要素から成り、脳の多機能の駆使によってもたらされる。
知覚性言語野(受動性─与えられた言語を理解する)
この言語領野は視覚性連合野で発達。
音楽に関する領域は、脳内で言語機能領域と連合され結びついている。我々の大脳には言葉を理解する皮質域が後連合野に、言葉を伝える皮質域が前頭連合野にある。「響き」は音楽と言語が結びついて成立する。
聴覚野に伝えられた情報は大脳皮質側頭葉にある聴覚連合野に送られ個々の音の情報が統合的に処理される。
「音楽を聴く」には聴覚野のニューロンの興奮が大脳皮質の他の領野に伝えられ、情報処理されなければならない。
視・聴覚の認知情報を周囲の状況に応じて処理したのちに運動連合野に伝達する。
感覚野→後連合→高次運動野→第一次運動野。の流れ。
演奏家は音の順序づけをイメージする回路(連想→即興演奏→記憶)を前頭前野により活性化して、側頭葉に貯蔵されている長期記憶を想起し、内的「響き」と照合しながら、演奏を行う。
特にジャズ演奏家は音が外的空間に鳴り響いてないときも、音のイメージを大脳皮質連合野内に連続的に想起し、何らかの意味をもった形象=作品へとまとめ上げる能力を持っている。
演奏表現は「広義の運動野」の活動によってなされ、脳全体としてバランスを保った調和した機能である。
能動的ロゴスの座である運動性言語野を含む前頭連合野と、受動的ロゴスの座である感覚性言語野は結びついており、各ロゴス野の近傍の前頭葉下部と側頭葉前方部は、それぞれパトスの座である大脳辺縁系(海馬・扁桃体)と結びついて、前頭連合野と辺縁系とは関連し前頭前野で情報処理した後に、運動系を活性化させている。
ジャズのように簡潔な響きの中に多層的意味が内在しているほど、新皮質レベルの活動に大脳辺縁系に属する古い皮質(海馬、扁桃体)及び脳間(視床下部)や中脳(アドレナリン・ドーパミンやセロトニン)を含めた皮質下の情動の機構働きに起因する。
聴覚連合野の機能に情動が生じることにより、高次の脳機能が発揮する。
聴受の場合は、音楽と呼ばれる総合的響きの全体が脳に働きかけて情動を呼び覚ます。
多数からなるニューロン群は皮質間に互いに結合されている。この神経回路を活性化させることにより、演奏や聴受により、機能的にもその結合が強化される。さらに、高次の反応形態をもったニューロン群に伝えられることにより統合されていく。これらの過程が後連合野内で行われる。
音楽を指して用いられる「形姿」「形態」(ゲシュタルト)は脳内の諸領野の働きが収斂されたところに浮かび上がる形態に他ならず。
情動の機能は高次の認識機構が基盤で根底にあったときに芸術や文学などの分野において、格段に高いレベルが発揮される。
川村光毅(慶應大学名誉教授・脳神経系科学、脳解剖学・精神科)ウェーブ上論文・論考を参照させて頂きました。